色鉛筆画家のカケラ

色えんぴつで絵を描いて暮らす画家の雑記帖 

museの新商品“Do&Be art paper”が色鉛筆画に抜群。6種描き比べ。

 

国産の画材用紙トップサプライヤーであるmuseから、新しくコットン100%水彩紙として「Do art paper」と「Be art paper」が発売されました。

Do art paper は、ナチュラルホワイトの適度なザラつきをもった細目、
Be art paper は、同じ色合いで滑らかな表面の極細目となります。

私がふだん使いしているこれまでの画紙と比較しながら、そのレビューを述べていきます。


まずは紙肌や色味から見ていきましょう。

 

f:id:kazuyuki_yae:20201026195053j:plain
f:id:kazuyuki_yae:20201026195057j:plain
f:id:kazuyuki_yae:20201026195101j:plain
f:id:kazuyuki_yae:20201026195256j:plain
f:id:kazuyuki_yae:20201026195251j:plain
f:id:kazuyuki_yae:20201026195246p:plain

 


 

f:id:kazuyuki_yae:20201026195105j:plain
f:id:kazuyuki_yae:20201026195110j:plain
f:id:kazuyuki_yae:20201026195114j:plain
f:id:kazuyuki_yae:20201026195242p:plain
f:id:kazuyuki_yae:20201026195237p:plain
f:id:kazuyuki_yae:20201026195231p:plain

上段左から、マルマンvifArt荒目・マルマンスケッチブック・muse NEW TMK POSTER。
そして下段左から、muse KMEK KENT・Do art paper・Be art paper。

色味は、

【クリーム】vifArt > TMK > Do&Be > スケッチブック > KMK 【ピュアホワイト】

といった並び。
黄味がかった色を使えば、ただ描くだけでノスタルジックな雰囲気や上質な仕上がりにする事ができますし、純白に近い紙色を使えば、清らかで輝く白を表現できます。

また“シボ”とよばれる表面の凹凸は、荒目(あらめ)・中目(ちゅうめ)・細目(さいめ)とおよそ分けられ、様々なマチエールを生み出します。
今回レビューに使用したvifArtが荒目。そしてこの中ではスケッチブックが中目にあたり、NEW TMK POSTERとDo art paperが細目といえます。あえて分けるならば、KMK KENTとBe art paperが極細目といったところでしょうか。

それではいざ描きながら使用所感を添えていくことにします。
1枚目ではイエローとシアンを、2枚目でマゼンタとブラックを乗せ、画紙に合わせてアートナイフで削り出したハイライト処理を行なっています。

 


vifArt 荒目(マルマン)

f:id:kazuyuki_yae:20201026195118j:plain
f:id:kazuyuki_yae:20201026203253j:plain


なにげなく描くだけで上質な仕上がり

vifArtとは、マルマンが開発した国産高級水彩紙で、細目・中目・荒目とありサイズも豊富に揃っています。
ここで使用したのは荒目です。陰影表現が豊かで趣あるタッチが自然と生み出されます。シボの上面に薄く色を置くことでも、荒いシボに色鉛筆をひっかけるように塗っても描画ができ、またその引っ掛け方、つまりストロークの向きによって、色の乗り方が変化します。
反面その凹凸によって線をシャープに引くことには向いておらず、質感を生かした作品作りを心がける必要があります。
また、黄味かかった紙色は、アンティーク調やノスタルジックな風合いを描きたい時には最適です。

塗り重ねるとさらに豊かな表情を生み出す

多層塗りをしてもしっかりと顔料を受け止めてくれる定着性の良さと、シボによって色が散らされ、独特の混色表現が生まれます。
その定着性の良さから、あとからホワイトを乗せることもある程度可能ですが、凹凸があり柔らかな紙面のため、スクラッチなどには不向きです。せっかくなので、消しゴムやナイフといった技法を使わず、紙肌の良さをだいじにそのまま用いたい画紙です。

 


スケッチブック(マルマン)

f:id:kazuyuki_yae:20201026195123j:plain
f:id:kazuyuki_yae:20201026195149j:plain


圧倒的なコストパフォーマンス

誰もが知ってる馴染み深いマルマンのスケッチブックは、学習用具として用いられるほどリーズナブルな価格ながら、その品質は確かです。
紙色は癖のない白。どんな画材でも描きやすい中目の紙肌で、傷もつきにくいタフさ、ビギナーの方が最初に試す画紙として最適です。

ハードな塗りにもしっかり対応

極度の厚塗りを行うとさすがに顔料が滑り始めますが、ある程度まではしっかりと受け止めてくれます。中目ではありますが、シボの彫りは浅く、紙の目を埋めるように塗ることも可能。オールマイティな紙質です。
ただしナイフによるスクラッチは毛羽立ちを起こし不向きです。

 


NEW TMK POSTER(muse)

f:id:kazuyuki_yae:20201026195127j:plain
f:id:kazuyuki_yae:20201026195152j:plain


アニメーションスタジオ御用達のイラスト紙

細目で顔料の食いつきがよく、自然な質感で描く事ができますが、紙肌がソフトなため、初手で乱暴に描きなぐってしまうと傷がつきやすいです。丁寧に下地をつくることができたなら、塗り重ねた時に下地の筆跡がテクスチャとなって、独特のマチエールを生み出します。
ほんのりクリーム色かかっていますが、色鉛筆のホワイトもしっかり乗るので、場面にあわせて使い分けるとよいでしょう。
ただサイズラインナップが少ないのが欠点。

ほどよいザラつきと滑り加減が水彩のようなタッチに最適

下地を丁寧につくったあとの塗り重ね時には、ほどよいタイミングで顔料が動き始めます。ただし滑ってしまうほどではなく、塗り込むことも、こねあわせ混色することもできる、という懐の深さを感じます。
なので、しっかりと描き込み細密に仕上げることも、ぼかしやにじみを自分で生成しきれいなグラデーションにすることも可能で、画風を限定しない画紙です。

またナイフをあてると、ケント紙のように表面を削ぎ落とす感覚ではなく、まさに彫っているような、柔らかな感触です。そのため、曲刃などを用いれば、削り跡に表情を持たせることもできます。

ただし、紙の構造上、横向きのスジが薄塗りだと見えてしまいます。塗り込めばなじませることができますが、あえてこのスジを生かした作品も面白いのではないでしょうか。

NEW TMK POSTERには、渡邊洋一氏監修によるアニメーションコラボレーションエディションも販売されていますが、シボの彫りが深くクッキリと浮かび上がってしまうため、個人的には通常版をオススメします。

 


KMK KENT 裏(muse)

f:id:kazuyuki_yae:20201026195131j:plain
f:id:kazuyuki_yae:20201026195157j:plain


製図やデザインで活躍する高級ケント紙

細目の中でもキメ細かく滑らかな紙肌。表面ではすべり過ぎて色乗りが悪いため、裏面を使用しています。定着性は低く、しっかりと描いていかないと色が乗っていきませんが、シャープな線を描くことができ細密画に適しているといえます。
紙色は青みがかった純白。白を活かしたい作風のときには、KMK KENTの美しい白がより映えるはず。紙の厚さに#150と#200があり、またサイズも豊富です。

過度な厚塗りはできないが、ハイライト処理がもっとも美しく仕上がる

滑りやすく定着性が低いため、何層にも塗り重ねていると早い段階で限界に達し、受け付けてくれなくなります。ただしそれは、紙の上で物理的に顔料をこね合わせる混色がしやすく、また削りや消しによるハイライト処理が鮮やかにできるという利点の裏返しです。
硬い線を描ける・表面をなめらかにできる・ハイライト処理に適している、これらの利点を活かせる金属やガラスといった硬質感のあるモチーフや、動物画などで毛並みを細部まで描き込みたい時、またボタニカルアートなどにも適しています。

 



いよいよ新商品のレビューと参りますが、
Do art paperとBe art paperは、どちらもコットン100%の高級水彩紙です。これまで一般的な画紙を使っていたのなら、まずその描き心地に感動するはずです。
色鉛筆が滑るように抵抗感なく進み、スッと吸い込まれるように色が乗っていく様は、これまで以上に絵を描く楽しさを味わえると思います。
紙色は、ナチュラルなホワイト。自然な風合いで幅広い作風に対応できます。

 

Do art paper(muse)

f:id:kazuyuki_yae:20201026195136j:plain
f:id:kazuyuki_yae:20201026195202j:plain


細かなシボが顔料を受け止めほどよい質感と繊細な表現力を生む

NEW TMK POSTERより細かなザラつき加減なのですが、彫りが深く今までと同じ筆圧で取りかかると想定以上に色が乗ってしまいます。また柔らかな紙面の為キズがつきやすく、その点でも丁寧さが必要です。
とはいえ、要求される繊細なタッチコントロールに応えれたならば、表情豊かな筆跡を残すことができ、深みのあるマチエールに仕上がります。

塗り重ねても顔料が混じり合わない、美しい視覚混合

この画紙における色の乗りやすさは、塗り重ねた後の層でも変わらず、しかも下層の筆跡を残すことができています。それは、厚塗りになっても紙面で顔料がすべり動くことがなく、顔料が混ざることで生まれる濁りが少ない、ということにつながります。他の画紙での描画と見比べて頂けるとわかるのですが、混色がされているのに、色味が鮮やかできれいなままなのです。
かと思えば、練るように塗り込むことで、シボに滑り込ませ滑らかな表面にすることもでき、ハイライト処理もおよそ可能です。ただ定着が良すぎるために、きれいに抜き取りたいのであれば、下地の工夫が必要かもしれません。

 

Be art paper(muse)

f:id:kazuyuki_yae:20201026195140j:plain
f:id:kazuyuki_yae:20201026195205j:plain


キメ細かいのに濃淡すべての筆感をもれなく拾い上げる色乗りの良さ

Do art paperと同じく、色乗りの良さが抜群で、キメ細かい表面のために色鉛筆の筆跡がリニアに残ります。描いていて驚いたのは、色鉛筆で“点”が打てたこと。色鉛筆とは紙面にこすらせ動かすことで色を落とす画材ですので、マジックペンなどと違って触るだけでは色はたいして乗らないのです。こちらのサンプル画は7cm四方ほどの小さなサイズなのですが、その中でこれほど細かな点を打てるのは驚異的です。

後塗りでも細かな筆の運びができる圧倒的なキャパシティ

凹凸の少ない滑らかな紙肌でありながら、重ね塗りをした4層・5層目であっても、細かなタッチコントロールの濃淡に反応してくれます。しかも今回は6度塗り程度ですが、まだまだ塗り重ねられそうです。
もちろん、紙面上でこねあわせることで滑らかなグラデーションもつくれ、シャープな線画も可能、そしてナイフワークでのスクラッチでもシャープに削ることができます。

 



以上レビューでしたが、この2つの新商品は、色鉛筆画における大きなポテンシャルを感じます。あえて欠点を挙げるならば、ごまかしが効かないシビアさ、サイズラインナップが少ないことと…どっちがどっちだったか覚えにくい?といったところでしょうか。
これまでできなかったことが可能になる反面、描き手の技量も問われることになりますので、中・上級者向けであるかもしれません。

そしてもちろんこれらは、主に細目の画紙を使用する私の画法による、柔らかい油性色鉛筆のカリスマカラーでの所感であり、描き手や用いる色鉛筆によってそれぞれ感じ方も好みも違うはずです。今回できるだけ同じ描き方で比べようとしたのですが、無意識に画紙の特性にあわせてコントロールしてしまった場面もありますので、ご自身の手で確かめて頂きたく思います。


私見をまとめると、

 ・色鉛筆画入門    = スケッチブック
 ・古びた風合い    = vifArt
 ・美しい純白     = KMK
 ・水彩風のぼかし   = vifArt細目、TMK、Do art paper
 ・細密画・硬質感   = KMK、Be art paper
 ・筆感表現・鮮やかさ = Do & Be art paper

という使い分けが良さそうかなと感じています。

画紙は作品の仕上がりに大きな影響を与えます。
ぜひご自身の好みにあった画紙を探してみてください。