色鉛筆画家のカケラ

色えんぴつで絵を描いて暮らす画家の雑記帖 

塗り重ね順を考える

何色から塗り始めて、どの順で塗り重ねていくか?とは、色鉛筆画において悩む方が多いポイントです。
著書「描き込み式 いちばんていねいな、色鉛筆レッスン」でも触れていますが、今回はその選び方について、紙面には載せきれなかった詳説をしていきます。

ですが残念ながら、私自身探り続けている途上で、現時点での私の考え方として記していきますが、もしかしたら明日にはまた新しい取り組みをしているかもしれません。
色鉛筆画とは絵画用画材としての歴史がまだ浅く、日々新しい取り組みがなされている面白い分野でもあるのです。

 

塗り重ね順を決める要素としては以下の4つ。

  1. 描き進めやすさ
    作業効率を踏まえての選び方

  2. 光の硬さ
    対象に当たる光の硬さを表現するための選び方

  3. 仕上がりイメージ
    完成時の空気感などを想定して決める選び方

  4. 色鉛筆の硬さ
    同じメーカーでも色によって硬さの違う色鉛筆の特性をふまえた選び方

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それではひとつずつ説明していきます。

1. 描き進めやすさ

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ひとつめは、描きやすい手順で進めるという考え方。

淡い色からはじめると初心者でも描きやすく、気持ち的にも楽になります。

左のワンピースでは、柄に陰影が被さり、複雑な色味となりますが、陰影を無視して柄を先に描き、後から陰影を重ねることで描きやすくしています。副次的効果として、柄の色味を鮮やかにすることができます。

中央の薔薇では、彫刻を掘るように、淡い色でおよその形をとり、深い陰をもつ部分を少しずつ掘り下げていくことで、失敗しにくい手順を踏んでいます。

右の草花では、明るい色の下地に徐々に陰影を重ねていくことで、木々のあいだから差し込む柔らかい光を描きやすくしています。。この点については 2.の項でより詳しく解説します。

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今度は逆に、陰影を先に取る描き進め方。

陰影を先に描き起こし、色をあとから乗せていく、グリザイユ技法です。
形が特定されることで、その後の作業がしやすく、また人間の目のはたらきを考慮しても、効率的な手順であり、描きあがるスピードも早くなります。

最初に使う色には、ブルー・ブラック・ブラウンなど寒色系が多く用いられます。
左のシェイカーでは金属の硬質感のためにブラックを、中央のカレンデュラでは混色しやすさを重視してメインの色を、右の古城ではノスタルジックな雰囲気を出すためにインディゴブルーを選んでいます。

またあるいは、純粋な作業性から決めることもあるでしょう。
入り組んだ形状など、塗り損じてしまうと境界が汚くなってしまうことがあります。そんな時は塗りやすい側を後に残すと、予防できます。

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2. 光の硬さ

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どちらも、シアン・マゼンタ・イエローの3色で描いたリンゴですが、塗り重ね順が違うことで、仕上がる雰囲気が少し変わります。

上は暗い部分を先に描いたことでシャープで強い光を受けているように、
下は明るい部分を先に定めたことで優しい光に包まれたように仕上がります。

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3. 仕上がりイメージ

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目指す作品の空気感をイメージして、描きはじめの色を選択する考え方です。

左は鮮やかなブルーを、右はシックなセピアを下地に選び、その後同じように着色しています。同じ手順でも、最初の色の選び方だけで、描いた季節まで違ってくるようです。

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4. 色鉛筆の硬さ

同じメーカーの色鉛筆であっても、色によって若干の硬さの違いがあります。

基本的には、淡い色ほど蝋を多く含んでいて柔らかく、濃い色ほど粉っぽく伸びがありません。ただしこれはおよその法則性であって、当てはまらない色もあります。

例えば、硬い色でいくら塗っても均一に塗りきれない、そんなときに同系の淡色を重ねると潤滑油代わりになってくれて、元の色が伸びてくれます。

それは、硬く伸びにくい色を紙の地肌に塗ると食い込んで動きにくくなる為で、柔らかい色を下に敷くと、あとで乗せた色は動かしやすくなります。

このように、色ごとに違う硬さの特性をふまえて、塗り重ね順を選択する場面もあります。

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ここまで塗り重ね順を考える要素を述べてきましたが、これは描き方を変えずに順番だけ変えて同じように描いた場合のお話。
描き慣れていれば、どんな手順でも同じような仕上がりに微調整して持ち込む事が可能で、しかもどれもが「こうした方が良い」という絶対法ではなく、それぞれが影響しあう微妙で難しい関係です。

ですが、思った通りになるまでいくらでも塗り重ねられるかというと、そうもいきません。画紙に対して色鉛筆を塗り重ねられる厚みの限界というものがあり、一定以上塗り重ねようとしても、滑って受け付けてくれないのです。
その厚みとは色鉛筆に含まれる蝋によるもので、淡い色ばかりを塗り重ねているとあっという間に塗る事ができなくなってしまいます。

いわば一定の手数の中で留めなければいけないパズルのようなもの。その許された中でいかに作り上げるかを楽しめたならば、より面白いものになるのではないでしょうか。


そんな中で、今の私がよく採用しているのは、
1枚の絵の中で、グリザイユ技法を用いる場所とそうでないところを共存させる描き進め方です。そうする事で、部位ごとに光の当たり方の変化が生まれ、空間の奥行きをより深く作り出すことができます。

そして、過去の私の作品に、「鑑賞する角度によって色味が変わって見える」という、偶然できた奇跡の一枚があります。絵画としてはそんなアトラクション要素などなんの価値もないことなのですが、未だにその仕組みを解析できておらず、探求し続けていたりもします。